「早く宿題しなさい」「明日の準備は終わったの?」「ほら、ハンカチ忘れてる!」
北海道の厳しい冬、朝の玄関先でつい叫んでしまう言葉たち。我が家には小学生の子どもが3人いますが、特に小5の長男に対しては、ついつい「先回り」した指示を出してしまいがちです。
一方で、私は中学校の教頭として、日々多くの若手教職員や生徒たちと接しています。職員室で「最近の若手は指示を待つばかりで……」という嘆きを耳にするたび、私はふと、自分の家庭での姿を思い出して背筋が凍るのです。
もしかしたら、私たちは良かれと思って出す「丁寧な指示」によって、子どもの自走力を奪い、「指示待ち人間」を育成してしまっているのではないか?
今日は、組織運営と子育ての交差点から、子どもの「自分で考える力」をどうチューニングしていくかについて考えてみたいと思います。
1. コマンド&コントロール(上意下達)の限界
組織論において、リーダーが細かく指示を出し、部下をコントロールする手法を「コマンド&コントロール」と呼びます。かつての高度経済成長期のような、正解が決まっていて効率が最優先される時代には、この手法は非常に有効でした。
しかし、現代のように変化が激しく、正解が一つではない時代(VUCAの時代)において、このスタイルは限界を迎えています。
これは家庭でも全く同じです。 親が「正解(やるべきこと)」をあらかじめ提示し、子どもがその通りに動くことを求める。このサイクルを繰り返すと、子どもの脳は「自分で考える」というスイッチをオフにしてしまいます。
「言われた通りにやれば怒られない」 「お父さんが次に何を言うかを待っていればいい」
この思考習慣こそが、のちに職場や社会で「指示がないと動けない」という悩みを生む根源になるのです。
2. なぜ私たちは指示を出しすぎてしまうのか
教頭という管理職の立場にいると、つい「失敗を回避させること」が仕事だと思い込んでしまう瞬間があります。学校行事でのミス、提出物の遅れ……。それらを未然に防ぐのが有能な管理者の条件だと。
しかし、シリアでの駐在経験を思い返すと、そこには全く違う風景がありました。 あちらの子どもたちは、大人の顔色を伺うよりも先に、自分の欲求や好奇心に従って動き、失敗し、また笑いながらやり直していました。社会全体に「なんとかなる(インシャアッラー)」という大らかな空気があり、失敗が致命的なダメージとして捉えられていなかったのです。
翻って、今の日本はどうでしょうか。 親である私たち自身が、「失敗させたくない」「恥をかかせたくない」という不安に支配され、子どもの試行錯誤の機会を奪っていないでしょうか。
「失敗のコスト」を親が肩代わりしすぎることは、子どもから「学びの報酬」を取り上げることと同じなのです。
3. 管理から「ファシリテーション」への転換
では、具体的にどうすればいいのか。私が職場で若手教員との対話に取り入れている「1on1(ワンオンワン)」の考え方を、家庭にも応用しています。
「共調節(Co-regulation)」という視点
最近、教育や心理学の分野で注目されているのが「共調節」という概念です。これは、大人が自分の感情を安定させ、子どもがパニックになったり意欲を失ったりした時に、共に寄り添って状態を整えていくプロセスを指します。
「早くしなさい!」と怒鳴る(コントロールする)のではなく、「今はどんな気持ちかな?」「何がハードルになっているのかな?」と問いかける。親が「落ち着いた伴走者」として機能することで、子どもは安心して自分の内面と向き合えるようになります。
Notionを活用した「情報の共有財産化」
私は得意のNotionを使って、長男と「やることリスト」を共有しています。 これは「指示」を「仕組み」に置き換える作業です。親が口で言うのではなく、Notionという共通のホワイトボードにやるべきことが並んでいる状態。
「これやった?」と聞くのではなく、「今日の状況はどう?(Updateはある?)」と聞く。 これだけで、主導権は親から子どもへと移ります。
4. 「待つ」という高等技術と、大人の余裕
教員を育て、子どもを育てる中で最も難しい技術。それは「待つ」ことです。 口を出せば3秒で終わることを、あえて30分かけて見守る。
私自身、白髪メッシュを楽しみ、筋トレで体を動かし、「イケオジ」を目指しているのは、単なる外見のためだけではありません。自分自身の心身を整え、子どもや部下の失敗を「おもしろいね、次どうする?」と笑って受け止められる「余裕」を持ちたいからです。
「指示待ち人間」というレッテルを貼る前に、まずは私たち大人の関わり方を少しだけチューニングしてみませんか?
- 「命令形」を「質問形」に変えてみる 「宿題やりなさい」→「宿題、何時から始める予定?」
- 失敗した時に「ほら見たことか」と言わない 「いい経験になったね。次はどうする?」と、未来の視点を提示する。
- 親自身の「余裕」を確保する 好きな音楽を聴く、筋トレをする。自分が機嫌よくいることが、最高の教育環境です。
親は「監督」ではなく、子どもの人生というプロジェクトの「ファシリテーター」へ。 明日から、玄関で叫ぶ代わりに、一呼吸置いて「今日はどんな一日になりそう?」と問いかけてみませんか。


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